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公共性の高い首都圏の鉄道路線の一部が値上げへ!

渋谷区で主として中古マンションの売買仲介を行なっている株式会社リアルプロ・ホールディングスの遠藤です。

 

新型コロナウイルスへの行動制限が事実上無くなり、外国人観光客も街で頻繁に見かけることが多くなりました。

 

弊社のある幡ケ谷には外国人観光客に人気のある「サクラホテル幡ケ谷」があるため、かなりの外国人が幡ケ谷駅を利用しています。

 

明日から始まるゴールデンウイークで、最も人気の観光地は東京との事ですので、外国人だけでなく地方からきた日本人観光客の多くも鉄道を利用すると思われます。

 

2021年に国により創設された「鉄道駅バリアフリー料金制度」を活用して首都圏のJRや一部私鉄が2023年3月18日土曜日から、普通運賃に一律で10円と通勤定期の値上げを開始していますが、この値上げによる収益改善はどれくらい見込まれるのでしょうか?

 

実際には、行動制限の撤廃と外国人観光客の増加による劇的な鉄道利用客の増加数の推移は1年後の鉄道事業者各社の決算書や各駅乗降客者数のデータ等を見ないとわかりませんが、1回乗るごとに10円を徴収すると言うのは塵積って山となるではありませんが、相当な効果が出るのは確実です。 

 

2021年の山手線各駅の1日平均の乗降者数(乗車人員×2)は7,158,348人となっており、定期以外の乗車人数が約4割とすると約286万3千人が1日に切符を購入していることになります。

 

これに365日を乗ずると年間約10億4,500万人の人が山手線を切符を購入して利用していることとなり、10円をかけると山手線利用者だけで年間104億円の増収が見込まれます。

 

コロナ過前の2018年には山手線各駅の1日平均の乗降者数は約1,093万人でしたので、仮に本年度の1日平均の乗降者数が1,000万人とした場合は定期外利用者が約400万人、年間の利用者数は約14億6,000万人となり、10円をかけると146億円の増収が見込まれます。

 

更に2023年以降に新規又は更新した定期代には、値上げ分が加味されますので、値上げの効果はてき面に現れます。

 

実際には電気代の高騰やバリアフリー設備への投資で費用負担も相当な金額になるかと思いますが、2023年度の鉄道各社の決算書は間違いなく改善されると思います。

 

さて、この運賃値上げを、鉄道各社は「値上げ」ではなく「収受」という言葉で使って説明しています。

 

この制度の主旨は、国土交通省の発表によると、「鉄道駅のバリアフリー化により恩恵を受ける全ての利用者に薄く広く負担してもらう制度」だとしています。

 

本料金制度では、鉄道事業者が利用者から収受した料金を、ホームドアやエレベーターなどのバリアフリー設備の整備(設置、改良、更新、維持管理等)に充てるとしています。

 

但し、通学定期券を本料金制度の対象外にするなどして、家計への負担の配慮を行い、また、この料金制度の透明性の確保を図る観点から、鉄道事業者は、事前届出時におけるバリアフリー設備の整備・徴収計画の公表、毎年度における整備・徴収実績(前年度の整備費・整備内容、徴収額等)の公表等を行うと定めています。

 

 そして、引き続き予算の確保に努めながら、都市部において新たな料金制度を活用いただくとともに、地方部において鉄道駅のバリアフリー予算を重点化することで、全国の鉄道駅のバリアフリー化を加速していくとしています。

 

建前は上記の通りですが、国土交通省の資料を読むと、実際はコロナによる働き方改革で鉄道需要の約2割が喪失し、今後もこの状況が続くことが予想され、極めて公共性の高い、鉄道事業者の利益確保の一翼も担っていることが垣間見て取れます。

 

下記の資料は国土交通省が公表している資料の一部ですが、今まで、都心部の鉄道路線の利益で地方のローカル路線の赤字を補ってきたJRが特に苦境にたたされているようです。 

 

苦境にあえいでいる実態は、2022年から国土交通省が「ローカル路線の有り方」として有識者会議を開いて、1kmあたりの1日平均利用者数(輸送密度)が1日平均1,000人未満の路線の存続について議論を活発化していることからも容易に理解出来ます。

 

この有識者会議も値上げを正当化するお膳立てとして、紙面を賑わしました。

 

何か事を起こす際には外堀を埋めるという周到な手段を使うのは昔も今も変わらないですね。

国土交通省「鉄道駅の更なるバリアフリー化のための新たな料金制度等について」から抜粋

国土交通省「鉄道駅の更なるバリアフリー化のための新たな料金制度等について」から抜粋。※は持株会社です。

具体的な運賃値上額について 

2023年3月18日より料金を改定した主な路線は

◆JR東日本の首都圏の主要路線(東京都は「奥多摩駅」「武蔵五日市駅」「高尾駅」、埼玉県は「大宮駅」、茨城県は「取 

 手駅」、千葉県は「千葉駅」「千葉みなと駅」、神奈川県は「久里浜駅」「大船駅」の内側)

 ※なおJR東日本は、エリア以外の駅を利用した場合(エリア内とエリア外をまたがって利用する場合を含む)は運賃の変 

  更はありません。

◆JR東海 東海道新幹線(フレックス定期券のみ東京駅・品川駅~新横浜駅間)

◆小田急電熱

◆相模鉄道

◆西武線

◆東京メトロ

◆東武鉄道

◆横浜高速鉄道

となっています。

 

具体的な価格表は下記の通りとなっています。

 

値上げする全鉄道事業者のICカードと切符の運賃は一律で10円値上げで、定期券の運賃は「JR」、「私鉄」、「東京メトロ」の3つに大別されます。

 

3月17日までに購入した定期乗車券は有効期間が切れるまで、鉄道駅バリアフリー料金加算前の料金となっています。

 

定期乗車券の有効区間外への乗り越しの場合は、鉄道駅バリアフリー料金が加算されます。

 

なお、通学定期券については、鉄道駅バリアフリー料金を加算せず、小児については、大人の旅客運賃に鉄道駅バリアフリー料金を加算後の半額となります。

 

小田急線の「小児用IC運賃」については、バリアフリー料金の設定はありません。

 

理由は、小田急線は「小児用ICカード」の利用については小田急線内一律50円に設定していることを考慮しているからだと思います。

京王線や東急線は値上げで対応!? 

東京急行電鉄(東急)は、コロナ禍により沿線に住む方のテレワークの普及率が高く、通勤定期券の収入がコロナ禍前よりも3割減り、今後も回復は見込めないとして、運賃の値上げを開始、回数券も既に2月に廃止しています。

 

鉄道各社の平均が2割減なので、東急が厳しいのは、数字を見ても明らかです。

 

京王電鉄は2023年秋頃、京浜急行電鉄は2023年10月に、運賃の値上げを予定しています。

 

京王線は京王相模原線の整備事業により開発負担金を上乗せしていた運賃を数年前に引き下げたのに、元の木阿弥となってしまいましたが、値上げで対応は、東急電鉄、京浜急行線と同様に「あっぱれ」だと個人的に思っています。

 

旅客運賃は極めて公共性が高いため、鉄道事業法に基づいて、国の審査と認可を受ける必要があり、認可を受ける条件が厳しく設定されておりハードルが高いため、国土交通省が2021年12月に、事業者の届け出制だけで審査が無い、鉄道駅バリアフリー料金制度を創設した経緯があります。

 

勿論、鉄道駅バリアフリー料金制度という名称の制度なので、増収分はバリアフリー関連の整備に限定されますが、即効性のある制度のため、多くの鉄道事業者がこの制度を利用しましたが、東急線、京王線、京浜急行線は、逃げることなく、厳しい状況を見据えて、小手先の手段ともいえるバリアフリー料金制度をあえて導入しないという、ある意味、非常に好感の持てる対応といえるかも知れません。

 

消費税導入の際の使途の限定が今になって、有耶無耶にされるのと同様にならないといいのですが、それは鉄道バリアフリー料金制度を活用した各鉄道事業者の企業倫理に委ねられていると言えます。

 

JRはもともと国鉄であり、赤字ローカル路線も多数抱えていることから、この制度を利用しなければならない立場だとは思いますし、また、それぞれの会社の考え方もあると思います。

 

然しながら、コロナ禍による落ち込みは誰もが認めるものであり、また、ウクライナへのロシアの侵攻による資源高等、誰も悪い訳ではありませんが、社会構造が大きく変化した中で、短期的な視点で対応するのか?はたまた長期的な視点で対応するのか?

 

その対応方法によりその企業の本質が垣間見れた気がします。