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浸水エリアは甘く見てはいけません

渋谷区で主として中古マンションの売買仲介を行っている株式会社リアルプロ・ホールディングスの遠藤です。

 

台風や長引く大雨による河川の氾濫の危険性を、浸水するエリアや浸水深、浸水時間を表示したハザードマップは相次ぐ大規模自然災害をニュースで見たり、また、2020年以降は不動産売買や賃貸借契約時の重要事項説明書に必ず記載しなければならない項目にもなり、かなり多くの人たちに知られるようになっています。 

 

しかし、認知度が高まっているにもかかわらず、住宅の水没リスクがある地域への人口流入が止まりません。

 

河川の洪水などで浸水のおそれがある地域に住む人は、2020年時点で全国で約2,594万人となり、過去20年間で約90万人増えているようです。

 

そのうち1階が水没してしまう浸水想定3メートル以上の地域の人口は約257万人で、その内2階も水没する浸水5メートル以上の地域の人口は約26万人にと想定されています。

 

浸水想定エリア内の人口が最も多いのは東京都の約415万人で、都民の3割弱を占め、浸水3メートル以上に暮らす人は約92万人となっています。

 

気候変動の影響で台風や大雨による大規模な河川の氾濫等が増える中、日本の全人口にあたる約2割が水害リスクのある土地に住んでいることになります。

 

国は都市再生特別措置法第81条の立地適正化計画の中で市街化区域の中に、よりインフラ整備が進み、人がより快適に暮らせるように整備していく居住誘導区域という区域を定めて、この区域内に人々が暮らすように誘導していますが、当然、水害リスクを含む災害リスクがある土地は基本的に居住誘導区域からは除外されています。

 

この法律では更に居住誘導区域の外で、一定規模の開発行為(特定開発行為)や建築行為(特定建築等行為)を行う場合には、行為に着手する30日前に市町村長へ届出が必要と定めています。

 

◆特定開発行為

・3戸以上の住宅の建築目的の開発行為。

・1戸又は2戸の住宅の建築目的の開発行為で、その規模が1,000m²以上のもの。

・住宅以外で人の居住の用に供する建築物として条例で定めたものの建築目的で行う開発行為。

 

◆特定建築等行為

・3戸以上の住宅を新築しようとする場合。

・人の居住の用に供する建築物として条例で定めたものを新築しようとする場合。

・建築物を改築し又は建築物の用途を変更して住宅等とする場合。

 

ここでいう住宅は、建築基準法において規定する住宅としているので、一戸建て住宅の他、共同住宅なども含まれ、自治体によっては老人ホームや寄宿舎なども対象としているケースもあります。

 

但し、この規定はあくまでも届出制度なので、届出すれば、ほぼほぼ問題無く建築が可能となるので、実質的な建築規制を行っている訳ではありませんり。 

なぜ浸水危険エリアに人口が流入するのか 

なぜ浸水エリアに人が流入するのか?

 

この答えは極めて単純で、浸水エリアの土地は他のエリアと比較して土地代が安いからです。

 

家の値段は土地代と建築費で決まり、これに加えて住宅ローンの金利にも住宅価格は左右されます。

 

昨今の建築費の上昇に加えて、住宅ローンの金利も限定的ではありますが、上昇傾向にあり、価格を高く設定すると、多くの方がマイホームの購入を断念することになりかねません。

 

国税庁が公表している令和5年の民間給与実態調査での男性の平均年収は569万円、女性は316万円となっており、仮に年収の7倍をマイホーム購入のマックスと仮定した場合、男性の借入限度額は3,983万円、共働きでペアローンを組んだ場合は6,195万円となるので4,000万円~6,200万円程度が一般的なマイホーム購入金額の目安となります。

 

この範囲内でマイホームを購入しようとした場合、多くの人は都心部のマンションや東京23区内西側エリアで駅徒歩10分以内のマンションや戸建ては中古物件であっても高すぎて購入できず、手の届く範囲が、浸水リスクエリア内の物件になってしまいます。

 

また、既に町が形成されているエリアは一定規模の開発ができる土地がそもそも少なく、逆にまだ開発余地が残されている土地の多くが浸水エリアには残されているためです。

 

人は昔から生きていくために欠かせない水の利用と大きな荷物の輸送する手段として河川の周辺に住み、街が形成されてきました。

 

河川の近くは平坦な場合が多く移動も楽なのも理由のひとつです。

 

冒頭にお話しした通り、土地代が安いので、建売業者やデベロッパーが新築物件を浸水リスクのあるエリアに建てる事が、浸水リスクのあるエリアへの人口流入の最大の要因という事になります。

 

ここ10年程度でリノベした中古住宅に住むという選択肢の認知度は格段に高まりましたが、主流はあくまでもマンションであり、戸建ては耐用年数の問題や構造上の問題などで、戸建てのリノベ物件はまだまだ発展途上であり、戸建ての購入は未だに新築物件が主流となっています。

 

宅建業法では、浸水リスクに関しては具体的に

 

・水防法に基づき作成された水害(洪水・雨水出水・高潮)ハザードマップで対象物件の概ねの位置を示すこと

 

・市町村が配布又はホームページ等に掲載する入手可能な最新のものを印刷して提示すること

 

・ハザードマップ上に記載された避難所についてもその位置を示すことが望ましいこと

 

 ・対象物件が浸水想定区域に該当していなくても、水害リスクがないと相手方が誤認することのないよう配慮すること

 

などの説明を購入前の買主にしっかりと説明するように求めており、実際にリスクの説明が行われていますが、浸水リスクエリア外では購入できないような魅力的な価格設定の新築物件は購入する側から見ればとても魅力的であり、目の前に表面化していないリスクを現実視することができずに、浸水リスクのあるエリアの新築物件をご購入されてしまう方が後を絶たないというのが現状だと言えます。

各地方自治体の取組事例のご紹介 

冒頭でお話ししていますが、命の危険が高まる3メートル以上(住宅2階部分)の浸水が想定される区域は非常に多く、その中でも、特に東京都江戸川区や足立区、埼玉県川口市といった地域(水没危険地域)での人口増加が顕著になっています。

 

国は気候変動李リスクによる豪雨が頻発しており、危険な地域は居住誘導区域から外すなどの対応をしていますが、都市開発が進む自治体からは「現実的ではない」との声も上がっているようです。

 

人口を増やしたい一方で、事前リスクを周知させる事との狭間で葛藤が生まれています。

 

被害を防ぐには建物の浸水対策や高所への避難誘導の徹底といった取り組みが欠かせませんが、避難路や防災公園の整備などに関わる「防災指針」を公表している自治体は限定的であるのが実情です。

 

但し、そのような状況下でも、ハザードマップはほとんどの自治体が作成済であり、インターネット上で入手可能なので、事前に浸水リスクの有無の確認を徹底してもらいたいと思います。

 

◆東京都江戸川区

江戸川区は川と海に囲まれ、陸域の約7割がゼロメートル地帯であり、大規模な水害が発生した場合は、多くの地域で長期間浸水が継続する恐れがあり、江東5区(墨田区、江東区、足立区、葛飾区、江戸川区)では2週間以上水が引かないエリアに100万人が暮らしています。

 

国の試算では、大規模水害時に1日に救助できる人数を2万人と見込んでいるため、江戸川区では、大規模水害時には、浸水が想定されない江戸川区外への広域避難を推奨しています。

 

広域避難は自主的な非難を推奨しており、「江戸川区大規模水害時自主的広域避難補助金」を創設しています。

 

これは、江東5区が「広域避難情報」を共同で発令した場合に、江戸川区民がホテルや旅館などの宿泊施設を自主的広域避難先として確保するための経費の一部を補助する制度となっています。

 

1人最大9,000円(1泊3,000円、3泊まで)とする補助金の申請が可能となっています。

 

さらに、江戸川区は、旅行会社やホテル・旅館団体と「大規模水害時における住民の自主的広域避難場所の確保支援に関する基本協定」を締結しており、江戸川区のホームページには、宿泊先情報のリンク先の他、ホテルを選択する際のポイント等が掲載されています。

 

◆埼玉県川越市

埼玉県川越市も人口流入が続く都市の一つです。

 

荒川や入間川に沿って低地が広がり、市街地にある浸水想定区域(3メートル以上)には約1万5千人の住民が暮らしています。

 

人口は過去20年で約25%増えており、特にJR川越線南古谷駅付近は都市構造再編集中支援事業として駅周辺の再開発事業が行われており、スーパーや病院もあって暮らしやすいエリアとして注目されて、人口が流入していますが、同駅周辺で想定される最大浸水深は5~10メートルとなっており、住宅3~4階が浸水する危険がありますが、地域の一部は居住誘導区域に指定されたままとなっており、何らかの対策が必要であるとしています。

 

◆千葉県流山市

流山市は子育て支援が全国ランキング47位、首都圏ランキングでは15位となっており、若い世代にベットタウンとして人気があるエリアです。

 

しかし、流山市が優先して開発を進める「市街化区域」の約2割が3メートル以上浸水する恐れのある洪水浸水想定区域となっています。

 

想定浸水区域内の住民は約4万人で浸水区域外にある避難所の収容可能人数は2万3千人にとどまっており、水害発生時には多くの人が行き場を失う可能性が指摘されています。

 

流山市は商業施設やホームセンターなどと協定を結び、立体駐車場などの高い場所に一時避難できる体制づくりを急いでいるようですが、水害リスクの認知度は十分とはいえないようです。

 

流山市は自治会と協力し、啓発用冊子「水害から『命』を守るためにあなたへ伝えたいこと」を住民に配布するなど対策を進めていますので、もし流山市で不動産のご購入を検討しているのであれば、この流山市の啓発用冊子をご覧ください。

 

このように、各自治体により浸水リスクに対する取り組み方に違いもあるので、不動産を購入する前に、自治体の浸水リスク対策も事前に把握しておいた方が良いかと思います。 

水害(災害)リスクを正しく理解する 

実際に水害にあった場合でも戸建とマンションでは対応がそれぞれ異なります。

 

戸建の場合は、床下床上浸水に限らず、プロによる現況調査と消毒が必要です。

 

特に木造住宅は浸水時間が長いと致命的な損傷となる可能性が高いので、50cm以下の浸水エリアであればともかく、浸水深3m以上の恐れがあるエリアの物件は出来る限り購入を避けた方が良いと思います。

 

2階以上であれば、1階の共用部の修繕は管理組合の保険対応ですが、電気設備が1階にある場合にはエレベーターは使用できなくなる可能性が高いと言えます。

 

各専有部分は個別の保険対応となります。

 

また浸水ハザードエリア内の戸建の保険は浸水ハザード区域外と比較して保険料が高く、今後はより一層高くなる可能性があります。

 

実際に大規模な浸水被害にあった岡山県倉敷市、真備地区の鉄道高架橋には西日本豪雨の浸水深5.2メートルを示す線が刻まれています。

 

2018年の西日本豪雨で災害関連死を含め12人が死亡した岡山県総社市、周辺地域は「100~200年に1度」の大雨の浸水想定が5メートルを超えていますが、それでも豪雨後に家の購入を決めた人もいるようです。

 

水害リスクを知った上で子供の小学校入学を機に育児しやすい環境を求めた結果での判断のようですが、今後の水災リスクの危険性は上がることはあっても下がる可能性は非常に引くいと思います。

 

行政も市民も生活の充実と災害リスクのはざまで葛藤を続けているようです。

 

 

あまり水害リスク(水没危険地域)の事ばかり考えていては、住宅購入が出来ないのというのも本音ですが、必ず水害リスク(水没危険地域)を不動産購入後に把握するのでは無く、くれぐれも購入前に把握したうえでマイホームのご購入の判断をしてください。