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低層と高層で構造の異なる建築物の税評価

渋谷区で主として中古マンションの売買仲介を行っている株式会社リアルプロ・ホールディングスの遠藤です。

 

2025年2月17日に最高裁で、低層階と高層階で構造が異なる高層建築物の固定資産税の算出方法の妥当性について争われていた裁判で、所有者側に不利な算出方法である「低層階での税評価方式」が適切であるとの判決がでました。

 

固定資産税は毎年1月1日時点で土地と建物を所有している人や法人が固定資産の所有地である市区町村に対して支払う税金です。

 

但し、東京23区内については東京都が納付先となります。

 

納付時期は市町村によって異なりますが、4月、7月、12月、翌年も2月に分けて納付するのが一般的ですが、一括で納付することも可能です。

 

固定資産税評価額は、総務大臣が告示する「固定資産評価基準」によって、市区町村がその価格を決定することになっています。

 

土地の固定資産税評価額は公示価格の7割程度が目安とされているのであまり問題になりませんが、建物の場合は構造、用途、素材などを考慮した再建築費評点数を計算し、その点数に経過年数による減額補正率を乗じて評価額を計算するとになっています。

 

評点数1点あたりの価額は、土地と同様に市町村が決定し、減額補正率とは、家屋の築年数の経過による損耗分を考慮した補正率になります。

 

家屋は、時間とともに構造や設備は徐々に劣化するので、築年数の経過によって減額されるので、古い家屋ほど評価額は低くなります。

 

減額率は耐用年数の長い鉄骨鉄筋コンクリート造のような建物ほど、評価額が下がりずらくなっています。

 

但し、新築住宅に限っては、特例で数年間の減税期間があるため、新築家屋の固定資産税は、減税期間終了とともに増税となるのが一般的です。

 

この建物の評価額がときとして、市区町村の計算ミスや建築知識不足のために、高い評価額となる場合があり、所有者とその固定資産がある市区町村との間で訴訟に発展する場合があります。

 

訴訟する側は当然のことながら、高い税率をかけられる所有者側となります。

 

今回は三菱UFJ信託銀行が大阪市と広島市に所有するホテルやオフィスビルなどの2018年度の評価額について。2市が不合理な方法に基づいて固定資産税評価額を過大に算出したとして、評価の取り消しを求めていたものでした。

 

恐らく訴訟を起こしたのは信託銀行ですが、実際には信託受益権を預かり運営しているファンド運営者からの指示であったと思われますが、あくまでも推測なので実態はわかりません。

床面積方式の固定資産税の評価額は無くなる!? 

今回争われたホテルやオフィスビルはいずれの物件も低層階は耐用年数が長い構造を採用し、上層階は耐用年数が短い構造を採用した「複合構造物」と呼ばれる建物でした。

 

複合構造物の場合、一般的には市区町村側が「主たる構造」を判断し、一棟全体がその構造で建てられたとみなして評価額を算定する方法が主流となっていますが、統一ルールはなく、訴訟では信託銀行が所有するホテルやオフィスビルの「主たる構造」をどう判断するかが最大の争点となっていました。

 

大阪市と広島市は建物を支える低層階の構造を「主たる構造」とみなす「低層階方式」に基づき税額を算定しており、これに対して信託銀行側は建物全体で最も大きな床面積を占める構造で判断する「床面積方式」を採用すべきだと主張し争われていました。

 

2つの方式での評価額の相違は約3億9千万~約11億4千万円とかなりの開きがありました。

 

最高裁は判決で「家屋の荷重などは、最終的に低層階を構成する構造が負担することになる」と指摘し、訴訟対象物である今回の複合構造物は、低層階の耐用年数が経過しない限り、他の部分は補修などによって建物として維持できるものとし、低層階方式を採用した2市の判断は「合理性を欠くとは言えず、許容されるものだ」と判決を下しています。

 

複合構造物はホテルやオフィスビルなどの高層建築に多い構造となっています。

 

理由は、下の構造物は、最高裁の判決の通り、建物全体を支える基礎となっており、高層階は、建物の全体の荷重を考慮し、下層階への負担を軽くする必要があります。

 

そのために、下層階には耐用年数が長く、よりしっかりとした構造である鉄骨鉄筋コンクリート造を採用し、上層階は鉄骨造など比較的耐用年数が短く、重量が軽減される構造などが採用されることが多くなります。

 

そのため低層階方式は床面積方式に比べ、築年数に応じた評価額の減少幅が小さく納税者にとっては固定資産税の負担が重くなってしまいます。

 

かつては低層階方式を採用する市区町村が一定数存在していましたが、現在は床面積方式が一般的y的になっていました。

 

市区町村の中には最近建てられた建物には床面積方式を適用しつつ、過去の建物は低層階方式で評価しているケースも多いとみられています。

 

実際に、最高裁で争われる前の下級審の司法判断は正反対の判決となっており、2023年1月の大阪高裁の判決は「低層階方式については、上層階の重さを支える低層階こそが構造の要と考えることには合理性がある」として低層階方式を認めましたが、2022年12月の大阪高裁の判決と2023年3月の広島高裁の判決は「低層階方式での評価を違法」として取り消しています。

 

市区町村にとって、黙ってもいても入ってくる建物の固定資産税は非常に重要な収益源であり、少しでも多く徴収したいというのが本音かと思います。

 

既存の建物については、今回の物件を除いて、自分たちが自らの判断で算定した床面積方式の評価額をいまさら違うと言って低層階方式に変えるようなことは無いと思いますが、今回最高裁で「低層階方式が合法である」との判例がでたことにより、今後新たに建設される複合構造物については低層階方式に追随する市区町村が増え、最終的には、低層階方式が標準化されていくのではないでしょうか。