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不動産取引における告知事項に関するガイドライン(案)(その1)

渋谷区を中心に中古分譲マンションの売買仲介を行っている株式会社リアルプロ・ホールデインングスの遠藤です。

今日は国土交通省が発表した、不動産取引における過去に生じた人の死についてのガイドライン(案)についてお話したいと思います。結構なボリュームですので2回に分けてご説明いたします。

事故物件に関するガイドライン(案)が発表 

2021年5月20日に以前から有識者を含めて検討されていた、いわゆる「事故物件」の取扱いについてのガイドライン(案)が国土交通省から発表されました。

 

死に対して感じるスティグマ(心理的瑕疵)は個人差があり、判例は多数あるものの、画一的な判断基準はいままでありませんでした。

 

そのため、不動産取引における円滑な流通や安心できる取引が阻害される面があり、賃貸住宅のオーナーにとっては自分の所有物件でひとたび、自死等が発生し、事故物件として取り扱われてしまうと、入居者が入らなくなり、不動産賃貸業自体が成り立たなく恐れが出たり、また、個人の所有物件でも物件内で人が亡くなったことにより、その物件の売却が出来ずに親族が苦労するといった事例が少なからず発生しています。

 

今回は、不動産取引業者が宅地建物取引業法上で負うべき責務の解釈について、検討会を設置して検討会を進め、その中でガイドライン(案)をとりまとめたものです。

 

但し、この問題は非常にナイーブな内容なので、広く国民に意見を聞くために意見募集を行ったうえで、最終的な決定を行う際の参考にするという内容になっています。

不動産取引において人の死に対して告知するべき内容とは? 

今回提示されたガイドライン(案)の内容では、過去に対象となる不動産において告知するべき内容は「他殺、自殺、事故死」としています。

 

更に原因が明らかでない死が生じた場合(例えば、事故死か自然死か明らかでない場合等)においても、買主・借主の判断に重要な影響を及ぼす可能性があるものと考えられるため、原則として、これを告げるものとしています。

 

自然死又は日常生活の中での不慮の死が発生した場合には、自宅における死因割合のうち、老衰や病死による死亡が統計において9割を占めるので、原則としてこれを告げる必要はないとしています。

また、自宅の階段からの転落や、入浴中の転倒事故、食事中の誤嚥など、日常生活の中で生じた不慮の事故による死についても、そのような死が生ずることは当然に予想されるものであり、自然死と同様に、原則として、これを告げる必要はないとしています。

 

ただし、このような場合であっても、長期間にわたって人知れず放置されたこと等に伴い、室内外に臭気・害虫等が発生し、いわゆる特殊清掃等が行われた場合においては、買主・借主の判断に重要な影響を及ぼす可能性があるものと考えられるため、原則として、これを告げるものとしています。

宅地建物取引業者が人の死についてどこまで調べるのか? 

宅地建物取引業者は、販売活動・媒介活動に伴う通常の情報収集を行う義務は負っていますが、先述した人の死についての事案が発生したか否かを自発的に調査する義務までは宅地建物取引業法上では認められていません。

 

他方で、「販売活動・媒介活動に伴う情報収集の過程において、過去に告知する事案が発生したことを知らされたり、その事実を自らが認識した場合買主・借主に告知しなければならない。」としています。

 

また、「媒介を行う宅地建物取引業者は売主・貸主に対して物件状況等報告書等(以下「告知書」といいます)に過去に生じた事案についての記載を求めることにより、告知書 に記載されなかった事案の存在が後日に判明したとしても、重大な過失がない限り、調査は適正に行われたものとする。」としています。

 

さらに、「過去に生じた事案が、照会先の売主・貸主あるいは管理業者から不明又は回答がなかった場合でも、重大な過失がない限り調査は適正になされたものとする。」としています。

 

ただし、契約後、引渡しまでの間に過去に生じた事案がを知った場合には、告知義務があるとした判例があるので留意するべきとしています。

 

ひとつここで懸念事項があります。このガイドライン(案)では、「原則として、売主・貸主・管理業者以外に自ら周辺住民に聞き込みを行ったり、インターネットサイトで調査するなどの自発的な調査を行ったりする義務はないと考えれる。」と記載してる一方で、「告知書等により、売主・貸主からの告知がない場合であっても、事案の存在を疑う事情があるときは、売主・貸主に確認して、買主・借主に情報提供する必要がある。」としている点です。

 

また、ガイドライン(案)では、インターネットや過去の報道等については正確性の確認が難しく、遺族のプライバシーに対する配慮が必要であり、特に慎重を要するとしていますが、実際には「大島てる」の事故物件サイトの掲載内容は、私の実務経験上での範囲でしかありませんが、実際に該当している場合が多いと感じています。また遺族のプライバシーには当然配慮が必要ですが、故人は個人情報保護法の保護の対象外のため事案の内容は調べることが可能です。

※個人情報保護法では保護の対象を「生存する個人に関する情報」としているため保護の対象にはなっていません。

 

以前のブログにも記載していますが「大島てる」の事故物件サイトは多くの人が認知しており、私も媒介業務を行う中で幾度か買主様から該当する事案があったことについて説明を求められたことがあります。その場合には、事案の存在を疑う事情に該当し、インターネットで調査するべき必要が生じるのでは?と感じています。

 

この問題は次回、告知義務期間についてでお話したいと思います。