渋谷区で主として中古マンションの売買仲介を行なっている株会社リアルプロ・ホールディングスの遠藤です。
倒壊の危険性がある「特定空家等」は勧告に従わない時点で、住宅用地の軽減措置の特例から除外されていましたが、その予備軍となる「管理不全空き家」も、早ければ2023年度中に特例から外されることになりそうです。
「管理不全空き家」とは、そのまま放置すれば「特定空家等」になる可能性がある住戸で、窓が割れていたり、壁の破損、雑草が生い茂っていたりする物件を想定しています。
「管理不全空き家」は全国で少なくとも24万戸が該当すると言われています。
窓が割れていたり、壁の破損であれば「管理不全空き家」とみなされてしまうのは、ある意味致し方無い気もしますが、草は、一度刈り取っても、1年もすれば、またぼうぼうになってしまいます。
草が生い茂ると、害虫や不法投棄、ネズミや野良猫などの繁殖の恐れがあるため、これらの空家も対象にするものと思われます。
実際、2年前の夏に千葉県のある空家状態となっているお宅の雑草の除去を行いましたが、庭が広かったせいもあり、トラック数台分の雑草と、無数の空き缶、ハチの巣、蛇などもおり、2日ががかりの大変な作業となりました。
更にトラックが都内ナンバーであったため、刈り取った大量の雑草を廃棄してくれる処分場が見つからず、最終的に一部はユンボで敷地内に穴を掘り埋めざるを得ませんでした。
地方に相続した実家がある方であれば、気づかないうちに「草がぼうぼう=行政からの勧告」という事態にもなりかねません。
遂に、不動産も終活の一環として事前の整理が必要な時代になってきました。
住宅用地の軽減措置と空き家の関係
固定資産税は土地や家屋を所有していると、毎年かかる税金で、毎年1月1日現在、各市区町村にある固定資産税課税台帳に所有者として登録されている人にかかる税金です。
固定資産税は固定資産税評価額に対して1.4%の税率となっています。固定資産税評価額については下記のブログの掲載記事をご覧ください。※参照ブログ「固定資産税評価額の調べ方」
人の居住用として建物が建っている土地については、固定資産税の軽減措置があります。小規模住宅用地(200㎡以下)については固定資産税評価額の「6分の1」、一般住宅用地(200㎡を超える部分)については固定資産税評価額の「3分の1」の課税で済みます。
余談ですが、大規模開発された住宅地で200㎡(60.5坪)以下の50坪から60坪の住宅地が多いのは、この小規模住宅用地の軽減措置を強く意識した結果です。
建物を解体してしまうと、土地の固定資産税が最大で6倍も跳ね上がってしまうのため、多くの人が相続した家の風化が進んでも、壊さずにそのままにしてしまうです。
実際には、建物の構造や築年数にもよりますが、建物の固定資産税が無くなる分、税金の支払は3倍から4倍程度になると想定されます。
更に、小さい頃から青春時代まで自分が育った家を「そのままにしておきたい」、「先祖代々続く家は売却せずに守っていきたい」等の気持ちの後押しもあり、結果、そのまま野ざらし状態になってしまうケースが少なくありません。
国土交通省の調査では空家の所有者の3割が何もせずにそのままにする意向を示しており、賃貸や売却の意思があっても実質「何もしていない」との回答は4割に上っています。
先述したように、当然空き家にも固定資産税がかかるので、建物を壊せば、その分、建物の固定資産税は無くなりますが、耐用年数が経過した建物の固定資産税は、それほど高くはなく、また近年は解体費用の高騰もあり古くなった戸建てを取り壊すにも最低でも100万円程度の費用がかかりますので、「建物を壊した方が損」という方程式が成り立ってしまうです。※参照ブログ「木造の解体費用はいくら」?
税優遇の見直しで住宅地の値段が下がる??
税優遇の見直しの具体的な指針はまだ不明ですが、今まで、建物が倒壊しそうでなければ多少雨漏りをしていたり、庭に草木が生い茂っていたとしても、あまり深く考えずに、相続した実家を訪れることもなく、数年ほったらかしにしていた人の所に、いきなり、行政から連絡がきて、「適切な管理をしてください」と言われても、直ぐに動ける人はそう多くはいないと思います。
税制優遇措置の撤廃までの移行期間はある程度あるにせよ、遅かれ早かれ、「特定空屋等」と同様に「管理不全空き家」も勧告に従わなければ、住宅用地の軽減措置の特例から外れることになり、例えば土地建物で総額年間7万円程度だった固定資産税の支払金額が、一気に30万円程度にまで膨れあがることになります。※参照:計算例記載のブログ「固定資産税評価額の調べ方」
今まで10万円にも満たない固都税であれば、「倉庫兼思い出の場所」としてそのまま放置していても問題なかった人も、年間30万円の負担となれば、かなり大きな費用として重くのしかかります。
となると、この「管理不全空き家」又は「これに準ずる多くの空家」が、売りに出される可能性があります。
ここからは私の完全に個人的な意見となりますが、これから大量に売りに出される可能性が高いのは、首都圏の通勤エリア圏内で、駅までバス便であったり、都市のオフィスまでドアツードアで1時間半以上かかるエリアだと思います。
コロナ禍では、テレワークの普及によりバス便の物件等でも、結構強気の値段でも新築建売住宅は売れていため、首都圏エリアの郊外地は、価格が上昇している地域が圧倒的に多かったのですが、今回の税制優遇見直しの結果、売りに出される家付き土地が急増し、郊外の土地は再び長い冬の時代に突入するのでは?と感じています。
理由はいつも私が題材にしている日本における人口減少問題が根底にあるからです。
更に、昨今のニュースで戸建ては強盗に入られるリスクが顕在化しており、防犯性が高く、駅に近く、築年数が経過しても資産性が維持できるマンションで暮らす人が今後も増加すると予想されているため、遅かれ早かれ、需要と供給のミスマッチが起こると思われるからです。
逆に、今回、政府は建築基準法の規制緩和等も検討しており、中心市街地や観光地などを対象に「空き家の活用促進区域」を創設するとしており、そうなれば東京の下町エリア、埼玉県の川越、千葉県の佐原、京都、奈良、金沢、鎌倉、萩市、倉敷、長崎等、現在も経済的基盤がありつつ、歴史的な建物も多く残るエリアや古民家体験等を積極的に活用しているエリアで、比較的状態の良い古民家などは活用できる余地は十分あり、それどころか付加価値が付いて、資産としての評価も増大する物件も多いと思われます。
いずれにしろ、本年度中に対策を実施するとのことなので、今後の動向に注目していく必要があります。
それと最後に大事なお話があります。建物を解体したら、土地家屋調査士に依頼して建物の滅失届を必ずしてください。
そうでないと、建物が無いのに、建物の固都税を支払わないといけない羽目になります。
登記関連では、権利関係は司法書士、土地の測量や建物を建設した際の建築延床面積の登記、建物の滅失登記などは土地家屋調査士と、それぞれの職域が違いますので、司法書士に滅失届を依頼しても職権がそもそも無いの出来ません。
実際に、建売業者等に売却する場合には、契約で滅失登記を行うことが契約に盛り込まれるので、問題はありませんが、行政からの要請で取り壊しても、滅失登記はご自身で行う必要があります。
費用は単体だと10万円くらい請求されるので、ご自身で行う方法もありますが、個人での申請を嫌がる法務局も実在するので気を付けてください。
私が確定測量もお願いして、プラスでお願いした際の最安値は4万円を切りましたが、他の土地家屋調査士は8万円程度、請求された事もあります。
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遠藤雅志 (土曜日, 04 3月 2023 11:33)
2023年3月3日に、本記事に掲載した、空き家対策関連の法案改正案が閣議決定されました。閣議決定とは国会への法案提出の前段階で内閣が意思決定したということです。2023年度中に記事の内容が現実化するかも知れません。