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不動産重要指標 東急線の輸送人員の変化

渋谷区で主として中古マンションの売買仲介を行なっている株式会社リアルプロ・ホールディングスの遠藤です。

 

鉄道路線の乗降者数は街の発展に欠かせない指標です。

 

人が集まれば、経済活動が活発になります。

 

ターミナル駅の大型商業施設やオフィスビルだけでなく、大規模なタワマンや大型マンションが建設されると、そこに、コンビニ、スーパー、薬局、医療モール、フィットネスクラブ、居酒屋やカフェなど、生活に必要な様々な業態のお店等が出店します。

 

乗降者数が増えている街は今後も住みやすい街となる可能性が高く、逆に年々乗降者数が減少している駅周辺の人口は減少し地価が下落していきます。

 

但し、潜在的な魅力がある街は、過疎化が進むと、大規模な再開発が行われ、街が蘇る可能性もあります。

 

いずれにせよ、駅の乗降者数の推移は不動産事業者やマイホームを購入する方達にとっては、必須の統計データとなります。

 

今回は、2020年1月15日国内で新型コロナ感染者が見つかって以降、新型コロナが鉄道会社にどのような影響を与えたのかを、東急線の輸送人員の推移と運賃収入の推移から検証していきたいと思います。

 

2012年12月26日に発足した第2次安倍政権による経済効果、いわゆる「アベノミクス」が始まって以降は、東急線の輸送人員は通勤定期、通学定期、定期以外とも順調に増加してきました。

 

しかし、新型コロナウイルス感染拡大に伴う、外出制限のため、2020年度(2020年4月~2021年3月)の年間利用者は、通勤定期利用者が対2019年度比で28.4%減、約1億6,488万人の減少、通学定期利用者が同じく55.5%減、約78,78万人の減少、定期外が30%減、約1億3,781万人の減少となりました。

 

一般的に営業利益は売上の20%程度と言われており、この大幅な利用者の減少は鉄道各社の存続にもつながりかねない、大幅な赤字をもたらしました。

 

然しながら、ワクチンの普及やコロナへの過度の不安が和らいだ2022年度(2022年4月~2023年3月)は、確実に輸送人員も持ち返してきてはいますが、非常に大きな変化が見られます。

 

先述したのと同様に2022年度を2019年度と比較して見ると、通勤定期利用者が27.8%減、約1億6,193万人の減少と、あまり回復傾向にありません。

 

一方で、通学定期利用者は約12.3%減、1,745万人の減少と、学生の戻りは高くなっています。

 

更に定期外についてはわずか4.0%減、約1,900万人の減少まで回復しており、2023年度には2019年度を超えるまでになると思われます。

 

最も大きなインパクトは2022年度の定期外の輸送人員が通勤定期の輸送人員を超えたことです。

 

景気拡大と定年退職の延長、女性の社会進出がより活発的になり、通勤定期利用者は年々増加していましが、コロナ禍による働き方の激変で、テレワークが急速に普及し、定着したため、企業が通勤定期代を支給せず、出社した際の実費精算や家庭内でのテレワークへの対価として、電気代の補助などにその分を充当した結果が見事に輸送人員に反映されています。

 

特に東急線沿線利用者はテレワークの普及率が高いため、このように顕著に輸送人員数の変化が数字に表れたと言えます。

 

更にテレワーク一辺倒だった企業の中には、出社を促す企業や、テレワークと出社を両立させるハイブリット型の勤務形態も増加しており、そのため定期外収入が増加したものと考えられます。

 

一方、急激に輸送人員が回復した通学定期利用者ですが、少子化による学生の減少が、年々増加してきた大学進学率よりも影響が大きくなり、今後は、頭打ちというよりも、むしろ、学生の利用者は徐々に減少していくものと思われます。

東急線の輸送人員の推移表
東急線の輸送人員の推移表

今後は運賃収入は定期外収入がより影響力のある稼ぎ頭となる!? 

これまでは輸送人員にフォーカスしてきましたが、鉄道会社の収益の柱である運賃収入の推移はどうなっているのか見ていきたいと思います。

 

通学定期に関しては、もともと学生を持つ家庭や苦学生の経済的負担を軽減するために割引率が高いため、安定性と言う点では貴重なものの、収益の柱とはなり得ません。

 

実は、一番の稼ぎ頭はもともと定期外収入でしたが、長期に安定した収益をもたらす、通勤定期利用者は鉄道会社にとっては、なくてはならない存在で、鉄道会社としても、注力していましたが、コロナ前と比較して大きな変化が起きています。

 

下記の円グラフで、2019年度と最新の2022年度の運賃収入の構成比率を見ると、定期外収入の比率が54%から61%に増加し、逆に通勤定期代収入が42%から35%に落ち込んでいるのがわかります。

 

また運賃収入の推移の棒グラフを見てもわかるように、コロナ禍のこの3年間、落ち込んだ通勤定期代収入は、戻りがほとんど無いことがわかります。

 

全くコロナの影響を受けていないデータとなると、コロナが5類に移行したのは2023年5月8日からなので、2024年度のデータとなり、かなりのタイムラグが発生してしまいますが、多少は戻りがあるものの、通勤定期収入の大きな戻りは無いであろうと私は予測しています。

 

一方、定期外収入については、東急線の場合には、山手線や京急線等と違い、外国人旅行客が訪れる観光スポットが限られるため、爆発的な伸びは見込まれませんが、それでも、それなりのインバウンド効果は予想されるため、定期外収入が全体の65%程度まで伸び、通勤定期代収入は30%程度まで落ち込むのではないか?と予測しています。

2019年度と2022年度の東急線の運賃収入の構成比率の比較
2019年度と2022年度の東急線の運賃収入の構成比率の比較
東急線の運賃収入の推移
東急線の運賃収入の推移