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家は住替えていくもの

渋谷区で主として中古マンションの売買を行っている株式会社リアルプロ・ホールディングスの遠藤です。

 

私が家を購入したのは20年以上前なのですが、その頃は、初めて家を購入するのは新築というのが当たり前で、私も、諸経費+物件価格の2割の自己資金を入れて新築マンションを購入しました。

 

しかし、これから家を購入する方は、私たちでは選択できなかった、人生を有利に過ごす選択肢をいくつも持っています。

 

リフォームされている中古住宅を購入する、中古住宅を購入して自分でリフォームする、自分達で土地を購入して思い思いの間取りの家をつくるコーポラティブハウスなど、今は新築以外にも様々な選択肢が広がっています。

 

しかし、これまでの住宅購入の常識が頭から離れず、せっかくのチャンスに気付かず、家を購入するチャンスをみすみす棒に振ってしまう方も少なくありません。

 

これはある意味古来から日本人が潜在的に新築を好んできた歴史があるからかもしれません。

 

伊勢神宮は式年遷宮(しきねんせんぐう)と言って、20年毎に宮処を改め、古例のままに社殿や御装束神宝をはじめ全てを新しくして、大御神に新宮へお遷りいただくと言う「しきたり」があります。

 

日本人が新築を好むのは、この1300年にわたり繰り返し行われてきた「しきたり」が日本人の心の奥底に深く刻み込まれているからかもしれません。

 

しかし、時代は大きく変化しており、新築偏重時代には選択できなかった、必要になったら中古などに住み替えるという選択肢です。

 

実は、伊勢神宮では式年遷宮の際に出る既存の社殿等から出た木材を廃棄せず、両正宮(内宮、外宮)の棟持柱だったものが20年後には内宮の宇治橋の鳥居となり、その20年後には三重県桑名市の「七里の渡跡」や亀山市「関の追分」の鳥居に利用されるなど、段階を踏みながら再利用されているので、別な見方をすれば、実は日本にも再利用(中古)を大切にする精神が息づいていたのかも知れません。 

 

欧米では、家族の成長と共に、家を住み替えるというのが一般化しています。

 

新婚から最初のお子様が生まれるまでは1LDK、お子様の成長と共に、ゆとりのある郊外の戸建て、お子様が独立し、大きな家が必要でなくなったら、利便性の高いエリアに住み替え、更に年齢を重ねた場合は駅近や買い物に便利な場所にある1LDKのマンションに住み替える又は老健施設に住み替えると言うように、最低3回以上の住み替えが当たり前です。

 

確かに、家族構成の変化や年齢により、広さやエリア、間取りも大きく変わってくるので、欧米スタイルの住み替えの方が合理的です。

 

しかしながら、 今までの日本人には潜在的に村意識的なものもあり、一度住んだら一生同じ場所的な考えも根強く残っていたのですが、多様化した現在では、人との結びつきが弱くなっている分、この障壁自体の垣根が低くなっています。 

家は一生で一度の買い物で良いのか?  

新築偏重時代には家は一生で一回の買い物、一国一城の主、終の棲家というような表現をよく見かけました。

 

中古住宅の流通が今ほど活発ではなかったため、一度家を購入したらそこにずっと住み続け、介護の問題に直面して慌てて売却するか、相続が発生して、相続人がそのまま放置してしまうか、何らかの必要に迫られて初めて売却するという事を考えるというのが今までの大きな流れだったと思います。

 

売却を考えられない理由は他にもいくつかあり、購入にかかった金額よりも安い金額でしか売れない、これまで苦労して返済してきたローン返済が頭によぎる、などでなかなか損切りできなかったり、相続した実家への愛着からそのままの状態で持ち続けてしまうと言うのが実情のようです。

 

他方で資産価値の目減りが緩やかで、思った以上の売却金額になった、とか、中には想定した価格よりも倍以上で売却できたという声もよく耳にします。

 

これらの違いは将来売れる(もしくは売りやすい)物件を購入したかどうかにかかっているのです。

 

多くの方が思い浮かべるマイホームは、3LDKのいわゆるファミリータイプと呼ばれる間取りの家です。

 

今までは、結婚して子供が産まれる、もしくは子供が少し成長したタイミングで家を買うのが一般的で、確かにファミリータイプの間取りは子供が一緒に住んでいるうちは使い勝手が良いですが、子供が独立してしまうと途端に子供部屋が無駄なスペースになってしまいます。

 

実家にある自分の部屋がそのままになっていたり、物置になっていたりするのはよくある事です。

 

夏休みやお正月などに、独立した子供が実家に帰省する際に利用するので、親世代からすると、子供が帰ってくるためのスペースと納得しているのかもしれませんが、帰省しても一泊しか泊まらなかったり、伴侶に気遣って、そもそも実家には泊まらずに、ホテルや旅館に宿泊する人も多くいます。

 

戸建ての場合は、後期高齢期に差し掛かると更に問題が深刻になります。

 

後期高齢者にとっては家が広すぎ、特に2階にいくことは極端に減り、高齢になればなるほど住み替えの選択が金銭的にも体力的にも厳しくなります。

 

家族と過ごした思い出が足かせになり、ギリギリまで頑張るものの、いよいよ介護が必要になった時に資金の問題に直面します。

 

余力のある方は老健施設やシニア住宅などに移住しますが、先述したように、思い出が詰まった家を、使わないからと言って売却されることは非常には少ないのが実情です。 

 

結局のところ相続が発生しても空き家のまま放置された状態になるか、相続時に慌てて売りに出されると言うのが、将来売却することを想定せずに購入した家の末路になります。

 

立地が良いケースは別として、多くの戸建の場合、適切な時期に住替えを済ませていれば、物件も築年数的に十分売却できたかもしれませんが、高齢になり、家の改修もしていない見た目での老朽化がわかる状況では、なかなか思った価格で売却することは難しくなります。

 

今後日本では、更にしばらくの間は高齢者が増え続け、2023年の年間の死亡者数は約159万人で160万人を超える勢いとなっています。

 

となると、今後空き家になる住宅はどんどん増えていくことになります。

 

この流れから行きつく悩みは、「そもそも最初に購入した家に一生住み続けるのは無理があるのでは?」ということになります。

住宅選びは人口動向などを見極めて購入する

日本創成会議が2014年に発表した消滅可能性都市のレポートで豊島区が消滅可能都市になる可能性があるとして、話題になりましたが、人口戦略会議という別の団体が2024年に公表した内容では、日本全体の約40%にあたる744自治体が消滅の可能性があるという報告書を発表しています。

 

744自治体、消滅可能性 4割超、30年間で女性半減

 

今後47都道府県中41位の山梨県と同じ人口が毎年減り続ける社会になるので、当然ながら自治体の整理も加速度的に進めていかないと、立ちいかなくなる恐れがあります。

 

但し、ご紹介した人口戦略会議の公表資料の中で見過ごせないのが、日本創成会議が2014年に発表した消滅可能性都市は896だったのですが、150ほど減ったという点です。

 

もちろん豊島区は消滅可能性都市ではなくなっています。

 

公表資料では外国人住民の増加であると記載されています。

 

外国人の移民問題はニュースでもよく見かけるようになりました。

 

日本人は移民と聞くと工場労働者をイメージする人が多いのですが、問題の本質は隣人として移民を受け入れられるか?ということであり、文化の違いから様々な問題が発生し得ると容易に想像できます。

 

人口減少により「捨てる街選び」が加速します。

 

具体的には自治体を維持するためのコスト負担が重くなり、都市部と地方で大きな差が生じてきます。

 

人口が減る街は、自治体が負担する金額が増え続けますが、逆に享受できる行政サービスの質が低下していきます。

 

多くの人は住みにくくなった街をあえて選択する理由がないので、それらの街から離れ、ますます人口流出が加速していきます。

 

移民問題も重要なテーマであり、本来はそうあるべきではないのですが、埼玉県川口市や川崎市の一部エリアのように移民によるコミュニティが急速に広まったエリアには日本人が集まりにくくなる可能性が高いと言えます。

 

よく言えば異文化コミュニケーションが図れる立地ですが、悪く言うと、日本人が想定しない宗教や文化の違いに起因する問題に巻き込まれる立地とも言えます。

 

特にごみ捨てに関してのトラブルが最も多いようです。

 

このように現在時点で発生している諸問題だけでも、このエリアに家を買ってしまうと将来売れなくなる、売りにくくなるというのは容易に想像できますし、このような地域は今後益々増えていくと予想されています。

 

このように様々な点から、人口減少問題に直面している日本という社会が大きく様変わりし始めています。

 

不動産の原則は立地です。

 

物件や物件の価格の安さばかり目が行って、肝心の立地の検証を疎かにすることがないよう、家を購入する際には不動産会社とよく相談して十分に検討を重ねてください。

 

消滅可能性都市のことを先ほどご紹介しましたのでもう少し触れたいと思います。

 

北海道夕張市のように財政破綻してしまう例も十分に起こり得る事態ですが、その前に自治体の統合が進むことが予想されます。

 

自治体の統合と共に、少子化に伴い、学校の統廃合なども進んでいます。

 

やらざるを得なくなっているのでやるしかないのですが、この流れにブレーキをかけるのが住民の想いです。

 

行政サービスの最適化の行く先は、住むエリアへの限りある財源の集中しか生き残る道はありません。

 

但し、長年住んできたエリアが住まないエリアに指定されたら心情的には受け入れ難いことだと思います。

 

実際に各自治体の議会などを見ると、地元住民の声と執行側の意見の相違が多く見られます。

 

総論として縮小せざるを得ないとわかっていても、いざ自分自信に関係する問題となると断固として反対する、そんな感じです。

 

わかりやすい問題で、都心部でも顕在化している例で言うと、今まで使っていた近くのゴミステーションが効率化のために遠くなることに対して反対するといったことや、バスが減便されて不便になったのでなんとかしてほしい、と言った具合です。

 

特に地方は若い世帯の流出を抑えるだけでなく、国から得る支援策を獲得する対策も必要になるので、住むエリアを限定し、限られた資本を集中投下して魅力ある街としてのアピールをすることも必要となります。

 

しかし重点エリアから外れた人からすると、自分に関係のないところに予算が使われるのは、おもしろくないわけです。

 

これも人間の性なので避けて通れない話になりますが、必ず問題になるのが街の名称です。

 

○○市と○○市が統合します、となると、統合した市の名称をどうするかは、かなり大きな問題となります。

 

統合する市の力関係が同等の場合は、たとえば政令指定都市のさいたま市のように新しい名前を付け、各区にはもともとの名前を残しましょうとなれば話はなんとかまとまりますが、力関係に差があると、強い自治体(人口が多い自治体)の名称をそのまま使うという意見も強く、地元が失われるような感じがして、名前が変わってしまう方の自治体に住む人は当然ながら反対することになります。

 

例えば埼玉県鳩ケ谷市は埼玉県川口市に編入、山梨県でぶどうで有名な勝沼町は塩山市と大和村が統合して甲州市に名称変更されたいった具合です。

 

特に政府主導で行われた平成の大合併と言われた1999年4月~2010年3月の間に全国に3,232にあった市町村は1,727に減少しています。

 

そもそも自治体が統合するということは市長も市議会議員も減ることになるので、積極的に議論すべき立場の人が、ともすれば自分の立場を失ってしまう可能性もある訳で、なかなか手の付けにくい問題となります。

 

かなりお話が長くなってしまいましたが、このように街全体の現在の動きも重要な判断基準です。

 

駅に近い○丁目、ではなく、市をまたぎ、県すらまたいで、人が集まり続けるエリアを選ぶというのは、令和時代の住宅購入の重要な論点であると考えます。

 

1回目の住宅購入に人生全てをつぎ込むのではなく、住み替えの可能性があることを認識しつつ、主に資金面でなるべくリスクの少ない住宅購入を行い、その後の展開に応じて柔軟に住み替えするというのが、今後のっ人口減少時代に向けた、最適な住宅購入と言えるかもしれません。