渋谷区で主として中古マンションの売買仲介を行っている株式会社リアルプロ・ホールディングスの遠藤です。
最近各地でタワマン建設に反対する声があがっています。
品川区は特に再開発に伴うタワマン建設が多く、武蔵小山駅前、大崎駅西口、戸越駅周辺など計6エリアで再開発の計画が進んでおり、住民の反対運動が起きています。
江東区の越中島でも再開発に伴いタワマンが建設される予定でここでも住民の反対運動が起きています。
同様に実は、私の事務所のある渋谷区でも、以前紹介させて頂いた渋谷区立神南小学校の建て替え(渋谷ホームズと渋谷区立神南小学校を一体的に再開発し、高さ150mのタワマンが建設予定)で、反対運動が起きています。
渋谷駅周辺はまさに都心部の一等地であり、高層の建物が建つのは当たり前というのが常識的な考えだと思うのですが、今回の事例は少しばかり事情が違うようです。
実は渋谷区役所の建て替え工事の費用捻出で、渋谷区役所の脇に2020年7月に建設されたパークコート渋谷ザタワーの住人が今回の再開発に反対しているのです。
私もゼネコン時代には何度もマンション建設の反対に立ち合い、いろいろと経験を積ませて頂きましたが、その中で「受忍限度」という考え方が非常に重要になります。
土地の利用はそもそも、その土地の所有者の自由であり、建築基準法等に合致した建物を建てるのは自由で、他人は基本的に文句を言えません。
なぜなら「自分が住んでいるマンションも隣地の戸建やマンションなどに日影を落としたり、眺望を阻害したりして、迷惑をかけており、お互い様なので、常識の範囲内で互いに我慢しましょう。」という考え方です。
しかし先述したように、今回の大きな反対理由が、自分たちもタワマンに暮らしているのに、東南側の眺望が阻害され、マンションの資産価値が落ちるという内容なのです。
また購入時には「渋谷のランドマークに住む」ようコンンセプトが気にって購入したという方も多いようです。
一見するとパークコート渋谷ザタワーの住人の単なるエゴと一言で済まされてしまうような気がしますが、いかりの根源は渋谷区が、容積適正配分型地区計画によって、入札を行わずに公共施設の容積率を民間施設に移して再開発するという手法に対して憤りを感じているのです。
渋谷駅は渋川が渋谷駅の山手線脇を流れており、谷底になっており、そこから渋谷区役所方面は上り坂となっており、パークコート渋谷ザタワーはいわばヒルトップに位置します。
そしてこのパークコート渋谷ザタワーは渋谷区の土地を定期借地権で借り上げて建設されたもので、三井不動産レジデンシャルが販売しましたが、役所と一心同体のプロジェクトであり、そこで、渋谷のランドマークとうたっておきながら、近くにまた渋谷区が共同して建設するパークコート渋谷ザタワー(高さ136.24m)を凌駕する150mのタワマンを建設することが、納得できない最大の要因となっています。
またパークコート渋谷ザタワーは北側はNHKと国立代々木競技場であり、人が住んでおらず、さらに西側は税務署、南側は渋谷区役所なので、住民にはほとんど迷惑をかけていない、という特殊事情もあるのかもしれません。
おそらく販売時には天下の三井不動産レジデンシャルがしっかりと近隣で建物が建設される可能性がある旨を説明しているとは思いますが、とても高い買い物をし、更に税金を多く支払っているタワマンの住民としては、渋谷区に対して堪忍袋の緒が切れてしまったのかもしれません。
私達宅建業者は必ず将来近隣に高い建物等が建設されるリスクがある旨を重要事項説明書に記載して、かつ、しっかりと口頭で説明させて頂きますが、多くの人がモデルルームや販売パンフレットを見て、購入する気満々で大丈夫でしょう。とあまり真剣に考えずに購入したのだと思います。
私も、やむを得ず、別件で、マンション建設の反対者として渋谷区に十数回も陳情にいったことがありましたが、結局は予定通り建物は建ってしまったので、反対してもかなり難しいかと思いますが、最近の渋谷区は玉川上水の緑道再整備事業でも入札を行わずに多額の整備費用を伴う計画を進めており、ここでも反対運動が起きています。
渋谷区として、本当にためになる提案であれば、入札をしないで事業者を決定することは問題ありませんが、最近渋谷区は少々強引に物事を決めているような印象があります。

三鷹市は脱タワマンを目指す
このような中で、三鷹市はタワマンに頼らない駅前再開発を検討しています。.
日経新聞が三鷹市長にインタビューした記事によると、東京都の多くの自治体が補助金を投じる再開発を進めていますが、人口や税収を増やせる可能性と持続可能性を比較した結果、三鷹市は周辺自治体に比べて出遅れた再開発で、身の丈にあった「新たなトップランナー」を目指すとしています。
河村孝市長はインタビューの中で「以前はタワーマンみたいなもので採算性を上げる再開発しかないと思っていた。」としたうえで、対象地域から「タワマンに頼らない方法はないのか」という問題提起があり、「タワマンの住戸は既存のコミュニティーとは隔絶されたものになりがちであり、経済性だけでなく、お金では測れないコミュニティーの財産をどう考えたらよいのかと、再考し持続可能性から疑問を持つに至った。」としています。
そして「三鷹市ならではの再開発に挑戦してみたいと思い、市長就任時に、大半は都市再生機構(UR)の賃貸住宅で駅周辺にある約1.5ヘクタールの土地に「子どもの森構想」を打ち出しています。
ここにある建物の多くが1964年にできた古い建物で、これを、段階的に10数階建て程度の建物に変えたいとして、残りの任期中で都市計画決定まで進めたい意向です。
今回の事業構想の対象地は23区を除くと東京都内では最後の大規模開発といってもよく、超高層ではない新たな再開発のトップランナーになりたいとし、工事費の高騰で再開発はどこも苦戦し、人手不足も重なる中で、これまでのタワマン一辺倒の考えを見直す必要があるとしています。
「事業費の高騰の際には、身の丈にあった再開発をする追い風にもなり、子育て世帯の流入などは超高層マンションを造れば解決する問題ではなく、既存のものを活用しながら、東京近郊らしい街づくりを目指していきたい。」としています。
確かに高層建物を建設した場合は予想を超えるようなビル風が吹くことがあり、また、建物の形状によってはタワマンからの落下物の危険性もあります。
さらに三鷹市長がおっしゃる通り、大規模タワマンはセキュリティ対策が厳しく、地域住民との触れ合いの機会が非常にが限られています。
更に、タワマンが誕生することにより、裕福な家庭とそうでない家庭の二極化が進み、より一層地域間のコミュニティが無くなっていくことに繋がりかねません。
サラリーマン時代に米国に研修に行った際に、「栄える者が暮らす街にはそれを支える人達が必要であり、反映している大都市には必ず光と影があり、治安の悪いエリアが必ず存在する。日本もいずれはアメリカの大都市と同じ経緯をたどることになるだろう」とアメリカの不動産会社の経営者にいわれたことがあり、まさに、その道をたどっているのではないかと日々感じてしまいます。

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